2016年12月27日火曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…の「現存在」の正体はこれだ…という前に述べておかなくてはならないこと編】

ヘラクレイトス
 (ハイデッガー全集)
   昔々その昔、ギリシャにヘラクレイトスという哲学者がいた。
 よく似た名前にヘラクレスという筋肉バカがいるが、あんなカブトムシ並みの知性の持ち主とは真逆の存在である。
 彼は言った。「万物は流転する!」さらにこうも言った。「あらゆるものは火からかたちづくられている!」
 深遠なる哲学を身につけた彼は、人を嫌って山中で暮らすうちに、身体中に水ぶくれ(水腫)ができてしまった。やむなく街へと降り、医者たちに謎をかけて回った。
「豪雨から旱魃を作り出せるものはいるか?」
「臓腑を空にして水分を出してしまえるものはいるか?」
 医者たちは皆首をかしげ、ヘラクレイトスは彼らに背を向けた。そしてて牛小屋に入ると、牛糞の山の中に寝転がった。子供達を呼んで全身に塗りつけさせた、という話もある。
 そうしてそのまま死んでしまった。享年六十。
 火の熱をすべての根源と考える彼は、牛糞の発する熱が水ぶくれの水分を蒸発させることを期待したのだ。
 なんというか、己の哲学に殉じた、と言えなくもないかもしれない。
   とは言え、ヘラクレイトスの死体を片付けた人たちは、さぞかし難儀だったことだろう。

2016年12月5日月曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…と言えば「現存在」なわけだけど編】

 「現存在」というのは、ハイデガーの哲学の中でかなり重要な位置を占めている。それなのに、なんか知らん「みんな当然わかってるよね?」的な扱いをよくされている。ハイデガーについての、いわゆる「解説書」の中で。

2016年11月15日火曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…がひっくり返せなかったちゃぶ台をひっくり返さずにおかたづけするには編】

    今のところ、ハイデガーと言えばフッサールの直弟子なんだから現象学だということになっていて、区別するためにフッサールについては「超越論的現象学」、ハイデガーの方は「解釈学的現象学」と呼ばれていたりする。
 しかし、読んでみればわかるが、ハイデガーのそれは「現象学」というより「解釈学」の意味合いの方が強く、「現象学的解釈学」と呼んだ方がいいんじゃないかという意見があって、私もそれに賛成したいように思う。
 では、「解釈学」ってどんなのだろう?

2016年11月2日水曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…がひっくり返せなかった『存在と時間』という名の「重すぎるちゃぶ台」編】


 あれはそう、娘が小学校に上がったばかりのことだった。
 ちょっと風邪をひいた娘を病院に連れて行った。そこの小児科の待合室には、大きなホワイトボードがあって、治療を待つ子供達が勝手に落書きして暇を潰せるようになっていた。
 私が手持ち無沙汰に文庫本に目を落としていると、「パパ、パパ」と病気にしては元気な娘の呼び声が聞こえた。「見て見て!」
 なんだ?、と顔を上げると、ホワイトボードいっぱいに幼い字でこう書かれてあった。
「ぱぱ そんざいってなに」
 一点の曇りもない実話である。これだから子供というやつは油断ならない。
 私は何と言って説明しただろう?
「えーと、イスがあるとか、机があるとか、いろんなものが『ある』ってことだよ」
 なんとも残念な説明である。しかし、小学校に上がったばかりの子供に、「存在」について説明できる術があるだろうか?
 いや、いい大人に向けてでも無理だろう。
 ハイデガーだって失敗してるのに。

2016年9月28日水曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…の『存在と時間』についてまずはよくある批判を押さえておこう編】

ハイデガー―
ドイツの生んだ巨匠
とその時代 
(叢書・ウニベルシタス)
    堅物なイメージがあるドイツにもちゃんと「小話」というものが存在し、その中に「ユダヤ小話」というジャンルがある。だいたいにおいて、ユダヤ人の「民族性」とやらを、戯画的にデフォルメして笑いを取るものである。
 戦時中のある日、カール・フォン・ヴァイゼッカーはハイデガーにこんなユダヤ小話を披露した。

ほんまでっか?ハイデッガー!【…の『存在と時間』第一部第二篇第五章第七四節「歴史性の根本体制」“Die Grundverfassung der Geshichitlichkeit”についての資料】



ほんまでっか?ハイデッガー!【…の『存在と時間』第一部第二篇第五章第七四節「歴史性の根本体制」“Die Grundverfassung der Geshichitlichkeit”の中ほどに「民族Volk」という言葉が出てくることについての資料】


2016年9月12日月曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…を解読するには東洋思想が鍵になったりしないけど翻訳すること自体が一種の「批判」になりうる編】

有と時 (ハイデッガー全集2)
『有と時』と書いて、「うととき」と読む。
 なんだか居眠りでもしてしまいそうだが、日本におけるハイデガーの『全集』では、『存在と時間』はこのように訳される。つまり、「有(う)」=存在、「時」=時間、ということなのだ。「時」の方はともかく、「有」については「なんじゃこりゃ」と思うのが普通の感覚だろう。
 なぜ「存在」ではなく、「有」なのか?

2016年9月1日木曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…の研究なら日本は超先進国だったりするの続きの続き編】

現象学の根本諸問題
〈第2部門〉講義1919‐44
 (ハイデッガー全集24)
現象学の根本問題
前回の続き。

     九鬼周造全集第一〇巻「講義 ハイデッガーの現象學的存在論」の第四章構成と破壊の注記に、
……………
Vom Wesen des Grundes
Was ist Metaphysik?
Kant und das Problem des Metaphysik
Grundprobleme der Phänomenologie(講義のタイプライター)
を參照したり.
……………

2016年8月27日土曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…の研究なら日本は超先進国だったりするの続き編】

前回の続き。

ハイデガー、現象学の根本問題
(木田元監訳)
 それでは、「世界・内・存在」は木田元のいう通り、シェーラーからのイタダキだろうか。
 と、即座に断ずるのも大人気ない気がする。シェーラーはフッサールの元を破門されてからも、ハイデガーとはちょくちょく会って話していたということだが、こちらも言葉の上っ面をちょいと拝借しただけではなかろうか。そして、ハイデガーがいざ論文を書く段になって、シェーラーとの混同を避けようと、独訳『茶の本』から別の「上っ面」を拝借したのではないのか。
 ここから見えるのは、ハイデガーが「世界・内・存在」について、それほど難解なことを考えていたわけではない、ということである。

2016年8月26日金曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…の研究なら日本は超先進国だったりする編】

言葉についての対話
―日本人と問う人
とのあいだの 
(平凡社ライブラリー)

………………
日本人 おっしゃっていることの見事な一例が、国際的によく知られた映画『羅生門』です。ご覧になったかもしれません。
問う人 幸い観ました。ただ残念ながら一度だけです。観ていて、人を思わず不思議なところに引き入れる日本的世界の魅力を経験したという気がしました。
………………

2016年7月23日土曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…の『存在と時間』はどのくらい訳がわからないか編】


木田元『最終講義』

……………
……しかし、彼が西洋哲学史見なおしの拠点にしている「存在」とか「存在了解」ということが、しばらくはさっぱり分かりませんでした。これは私に限らず、当時のハイデガー研究者(日本だけではなくドイツでも)が皆分かっていなかったようです。いや、いまでも分かっている人はほとんどいないのじゃないか。みんな、そのへんにくると、ハイデガーの言葉をお経のように繰りかえしてるだけのようです。
……………

2016年7月10日日曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…はナチスだったんだよの続きの続き編】

ハイデガーの
インタビューが
掲載されたシュピーゲル
    一九七六年、ハイデガーが死んだ。八六歳だった。ちなみに、ヒトラーとハイデガーは同い年である。つまりは、チャップリンともヴィトゲンシュタインともジャン・コクトーともオットー・フランク(アンネ・フランクの父)とも同じだ。
 自分と同年齢の人間が著名になると意識せざるをえないそうだが、果たしてハイデガーにとってはヒトラーがそうだったわけだ。

2016年7月4日月曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…はナチスだったんだよの続き編】

……犬存在Hundenseinとは、これは──それが在るということは──僕にとっては、存在者Seiendeたる犬が現Daのなかに投げられて在るGeworfenseinことを意味する。しかもそれも、彼の世界内存在In-der-Wert- Seinが犬の現Hunde-Daであるような、そんな具合に。……
……………

2016年7月2日土曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…はナチスだったんだよ編】

 えらい人だとかすごい人だとか、そういう尊敬を集める人が、実はろくでもない間違いをしでかしていたとわかった時、人はどのような行動をとるだろうか?
 多くの人はえらい人、いやえらかった人に向けて石を投げるだろう。
 しかし、少なからぬ人々がこのように言うだろう。
「それでも私は信じる」

2016年6月25日土曜日

英国病2.0?

欧州連合
―統治の論理とゆくえ (岩波新書)
    イギリスが国民投票でEU離脱を選択した。
 おーまいごおー!!と叫ぶ前に、ふと思い出したのはロンドンの暴動のことだ。

2016年6月18日土曜日

「全て集めてある」から「全集」なんてことは全然ない

「全集」と銘打つからには細大漏らさず少年時代の落書きまで収録すべきだ、とまで編執じみたことは言いたがる人も多いんですが、割と間違いやミスが多いのもまた「全集」というものなんです。

2016年6月13日月曜日

ただ今禁酒中

 現在、酒を断っている。
 健康のためではない。願掛けである。
 とりあえず、娘が大学に受かるまでは酒を口にしないことにした。