2016年6月25日土曜日

英国病2.0?

欧州連合
―統治の論理とゆくえ (岩波新書)
    イギリスが国民投票でEU離脱を選択した。
 おーまいごおー!!と叫ぶ前に、ふと思い出したのはロンドンの暴動のことだ。

 二〇一一年八月、ロンドンでは大規模な暴動が起こっていた。日本は地震で大変だったから、記憶に残ってない方も多いだろう。この暴動はロンドンの貧困層を中心として起こり、破壊と略奪をほしいままに繰り広げた。
 きっかけは警官による黒人男性射殺への抗議行動だったが、暴動が拡大するにつれ、そんなことはまったく忘れ去られた。
 この暴動におけるエピソードはいろいろあるが、印象深いのではイギリスの本屋のチェーン店、Waterstoneのツイートが話題になった、ということがある。

 店員の一人が「できるだけ店を開けておきましょう。もし本を奪われても、そこから彼らが何かを学ぶでしょうから」と言った、とのことである。
 まあ何というか、ジョンブルらしい上から目線がバリバリ放射されている感じだが、この店員の「期待」はまったく外れることとなった。
 暴徒は本屋をまったく無視したのだ。
 食料品店や、雑貨屋や、質屋や、電気屋が襲撃されることはあっても、本屋なんかまったく相手にされなかったのだ。
 暴れている貧困層のほとんどが満足に学校に行けておらず、「本」というものに一切価値を認めていなかったのである。
 指導者以外ほとんど文盲だった、ワット・タイラーの乱が思い出される。

 暴動は五人の死者と二千人の逮捕者を出してひとまずは沈静化したが、その後もずっと火種はくすぶっていた。
 去年(二〇一五年)もシリアル・キラー・カフェという、シリアル一杯に四ポンド四〇ペンスとる富裕層向けのカフェの前で暴動が起きたりしている。
Shoreditch Cereal Killer Cafe targeted in anti-gentrification protests

     anti-gentrificationというのは、英仏などで起こっている運動で、貧困層を街から追い出して中産階級の住む町にしようとすること(gentrification)に抵抗する(anti)というものである。
 gentrificationとは具体的に、貧困層を住まわせているアパートを持ち主から買い取り、住人を追い出して富裕層向けのマンションを建てる、という経済行動を指している。追い出された貧困層は行き場をなくし、富裕層への憎悪を募らせていくこととなる。
 こうした貧困層を置き去りにすることで、近年のイギリスは順調に経済成長してきた。
 今回のEU離脱について、このように野放図な格差の拡大に対する反発こそが、その根っこにあったのではないだろうか。
 移民がどうした、とかいうのは、通りのいい言い訳でしかない。現に、移民の少ないところの方が離脱賛成に投票する傾向があったそうだ。

 彼らは本を読まない。
 その機会も、金銭的余裕も、精神的余裕も、社会から奪われているのだ。
 それゆえ、本当に離脱したなら何が起きるか、考えることもできない。
 そして、彼らを作り出したのは、金融をもって社会の枢要とする人々である。
 おそらくこの先、イギリスで何が起ころうが世界は冷めた視線を送ることしかしないだろう。
 しかし、自業自得と呼んで済ますには、余りにも悲劇的な状況である。


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