現象学の根本諸問題 〈第2部門〉講義1919‐44 (ハイデッガー全集24) |
現象学の根本問題 |
九鬼周造全集第一〇巻「講義 ハイデッガーの現象學的存在論」の第四章構成と破壊の注記に、
……………
Vom Wesen des Grundes
Was ist Metaphysik?
Kant und das Problem des Metaphysik
Grundprobleme der Phänomenologie(講義のタイプライター)
を參照したり.
……………
とされている。この最後にあるGrundprobleme der Phänomelnologieが、『現象学の根本問題』と題されるものである。ちなみに、全集版だと『根本「諸」問題』となっていて、『現象学の根本問題』というタイトルは別の巻で別の内容になっているので、少々ややこしいことになっている。
講義 ハイデッガーの 現象学的存在論 (九鬼周造全集 第十巻) |
その参考資料であるGrundprobleme der Phänomelnologieの横に、わざわざ(講義のタイプライター)とあるのに着目していただきたい。実はこの当時、これはまだ書籍として刊行されていなかった。いや、それどころか、本場ドイツの哲学者たちですら、この講義の重要性に気づいておらず、多くはその存在すら知らなかったのだ。ドイツの哲学者たちがその重要性に気づくのは、それから半世紀近く経った一九七五年、ハイデガー全集がヴィットリオ・クロスターマン社から発行され、その第一回配本にGrundprobleme der Phaenomenologie 、すなわちこの『現象学の根本問題』が挙げられたときのことだ。
Gesamtausgabe Abt. 2 Vorlesungen Bd. 24. Die Grundprobleme der Phaenomenologie: Marburger Vorlesung Sommersemester 1927 |
「『存在と時間』第一部第三編」とは、「時間と存在」という名で書かれるはずだった『存在と時間』の未完部分である。(この未完については後で触れると思う)
つまり、これを読んでいるかどうかで、『存在と時間』の理解はまるで変わってきてしまうのだ。
なぜそんなものが日本にあったのか。この『現象学の根本問題』は、『存在と時間』の刊行(一九二七年二月)後すぐにマールブルク大学において夏学期に講義されたものである。その講義を聴講した日本からの留学生(湯浅誠之助ではないかと言われている)が、ドイツ人学生に小遣いを渡して講義を速記させ、それをさらにタイプに打ち直させた、ということだそうだ。この学生は帰国後に東京文理大学でタイプの複製を作り、日本人研究者に頒布した。おそらく、九鬼周造が手にしたのも、そのうちの一部だったのだろう。
こうしたことは当時珍しいことではなかったようで、この他にもハイデガーの講義録二編と講演記録をタイプしたものが、高橋里美と三宅剛一によってもたらされている。
・Sophistes(1924/25年冬学期、マールブルク大学講義、全集第一九巻“Platon; Sophistes”日本語版未刊)
・Vom Wesen der Wahrheit(1931/32年冬学期、フライブルク大学講義、全集第三四巻「真理の本質について」“Vom Wesen der Wahrheit. Zu Platons Höhlengleichnis und Theätet”
・Der Begriff der Zeit(1924年、マールブルク大学での講演、全集第六四巻“Der Begriff Der Zeit”日本語版未刊)
ちなみに、木田元は『Grundprobleme der Phänomelnologie』のタイプ原稿を借り受けた時、金を払って複数部タイプしてもらい、自分の以外は他に売りつけてタイプ代をチャラにしたそうだ。あのー、著作権のうるさい現代だったら犯罪ですよ? 先生。
現在刊行されている木田元監訳の『現象学の根本問題』は、この海賊版(?)が元になっている。
全集版は、ドイツの全集版からの翻訳で、章立てなどがやや異なっている。
次回に続きますです。
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