2016年9月1日木曜日

ほんまでっか?ハイデッガー!【…の研究なら日本は超先進国だったりするの続きの続き編】

現象学の根本諸問題
〈第2部門〉講義1919‐44
 (ハイデッガー全集24)
現象学の根本問題
前回の続き。

     九鬼周造全集第一〇巻「講義 ハイデッガーの現象學的存在論」の第四章構成と破壊の注記に、
……………
Vom Wesen des Grundes
Was ist Metaphysik?
Kant und das Problem des Metaphysik
Grundprobleme der Phänomenologie(講義のタイプライター)
を參照したり.
……………

 とされている。この最後にあるGrundprobleme der Phänomelnologieが、『現象学の根本問題』と題されるものである。ちなみに、全集版だと『根本「諸」問題』となっていて、『現象学の根本問題』というタイトルは別の巻で別の内容になっているので、少々ややこしいことになっている。
講義 ハイデッガーの
現象学的存在論 
(九鬼周造全集 第十巻)
    さて、この九鬼周造の講義は一九三一年、つまり戦前の昭和六年に行われたものだ。
 その参考資料であるGrundprobleme der Phänomelnologieの横に、わざわざ(講義のタイプライター)とあるのに着目していただきたい。実はこの当時、これはまだ書籍として刊行されていなかった。いや、それどころか、本場ドイツの哲学者たちですら、この講義の重要性に気づいておらず、多くはその存在すら知らなかったのだ。ドイツの哲学者たちがその重要性に気づくのは、それから半世紀近く経った一九七五年、ハイデガー全集がヴィットリオ・クロスターマン社から発行され、その第一回配本にGrundprobleme der Phaenomenologie 、すなわちこの『現象学の根本問題』が挙げられたときのことだ。
Gesamtausgabe 
Abt. 2 Vorlesungen 
Bd. 24. 
Die Grundprobleme 
der Phaenomenologie: 
Marburger 
Vorlesung 
Sommersemester
 1927
    その本にはハイデガー自らが脚注をふり、「『存在と時間』第一部第三編の新たな仕上げ」だと書かれていた。
 「『存在と時間』第一部第三編」とは、「時間と存在」という名で書かれるはずだった『存在と時間』の未完部分である。(この未完については後で触れると思う)
 つまり、これを読んでいるかどうかで、『存在と時間』の理解はまるで変わってきてしまうのだ。
 
 なぜそんなものが日本にあったのか。この『現象学の根本問題』は、『存在と時間』の刊行(一九二七年二月)後すぐにマールブルク大学において夏学期に講義されたものである。その講義を聴講した日本からの留学生(湯浅誠之助ではないかと言われている)が、ドイツ人学生に小遣いを渡して講義を速記させ、それをさらにタイプに打ち直させた、ということだそうだ。この学生は帰国後に東京文理大学でタイプの複製を作り、日本人研究者に頒布した。おそらく、九鬼周造が手にしたのも、そのうちの一部だったのだろう。
 こうしたことは当時珍しいことではなかったようで、この他にもハイデガーの講義録二編と講演記録をタイプしたものが、高橋里美三宅剛一によってもたらされている。
・Sophistes(1924/25年冬学期、マールブルク大学講義、全集第一九巻“Platon; Sophistes”日本語版未刊)
・Vom Wesen der Wahrheit(1931/32年冬学期、フライブルク大学講義、全集第三四巻「真理の本質について」“Vom Wesen der Wahrheit. Zu Platons Höhlengleichnis und Theätet”
・Der Begriff der Zeit(1924年、マールブルク大学での講演、全集第六四巻“Der Begriff Der Zeit”日本語版未刊)
 ちなみに、木田元は『Grundprobleme der Phänomelnologie』のタイプ原稿を借り受けた時、金を払って複数部タイプしてもらい、自分の以外は他に売りつけてタイプ代をチャラにしたそうだ。あのー、著作権のうるさい現代だったら犯罪ですよ? 先生。
 現在刊行されている木田元監訳の『現象学の根本問題』は、この海賊版(?)が元になっている。
 全集版は、ドイツの全集版からの翻訳で、章立てなどがやや異なっている。

次回に続きますです。

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