2015年6月28日日曜日

あんぽがどーしたとかしゅうだんてきじえーけんとかわけわかんなくてもこれだけはよくわかるたった一つの大切なこと

 一人の男の子がいる。年齢は五歳くらいとしようか。
 ある日、泣きながら家に帰ってきて、三つ上の兄に自らの悲劇を物語る。
「公園に遊びにいったら、みんなが意地悪して遊んでくれない。自分が遊ぼうとするとジャマばかりする」
 椿姫ばりの真剣な訴えに、兄は心動かされ、弟とともに公園に行く。
 そして、そこにいる子供たちに、なんで俺の弟をいじめるのか、と問い質した。
 すると帰ってきた答えは
「だって、順番とばしばっかりするし」
「お砂場でお山作ってると踏みつけにくるし」
「ブランコずっとやってて独り占めするし」
 子供たちばかりでなく、公園にいた誰かのお母さんもその通りだという。
「ほんとうか?」と弟に聞き返すと、「うるせえ!」と逆ギレした。
 兄は弟の頭をはたいて一言、「お前が悪い!」

2015年6月18日木曜日

『絶歌』という本について思い出したこと

『絶歌』の出版について

絶歌 』という本について知ったとき、「なんで太田出版が見城徹みたいなことやってんだろ?」と思ったら、やっぱり仕掛け人は見城徹だったようで、なんつーか事実って小説ほど奇でもないな、と思ったりした。
少年Aの手記の仕掛人は幻冬舎・見城徹だった! 自社では出さず太田出版に押し付け!?
 念のために書いておくと、『絶歌』というのは例の酒鬼薔薇聖斗による手記である。
 この出版について、いろいろと騒がれているようだが、そうした件についてはふれない。
 読んだわけでもないしこれから読むつもりもないからだ。しかし、これに関連して少し思い出したことがあるので、メモしておこうと思う。

 事件が起きたのは一九九七年のことだ。
 この年の四月、消費税は五%に引き上げられ、浮き上がりかけた日本経済は鼻面を叩かれたかっこうとなり、以後ずーーっと沈んだままである。
 犯行の異常性もさることながら、日本人の不況の記憶に寄り添いつづけた事件ともいえる。
 さらにこの年、一人の男の死刑が執行された。
 連続ピストル射殺事件の永山則夫である。

無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)

2015年6月15日月曜日

『令嬢ジェシカの反逆』をポッタリアンたちは読もうとしないのだろうか

 ヒトラーが最初からむき出しにしていた本性から、人々が眼を背けられなくなった頃、スペインでは内戦が始まった。ヘミングウェイやマルローやオーウェルが義勇兵として参加したその戦いに、イギリスから一人の貴族のお嬢様が加わる。
Hons and Rebels
(令嬢ジェシカの反逆)
    その名はジェシカ・ミットフォード。
 元々マルクスに傾倒していた彼女は、とある共産主義者と恋に落ち、駆け落ちしたのだ。
 お相手の名はエズモント・ロミリィ。彼はジェシカのまた従兄弟であり、あのウィンストン・チャーチルの甥でもあった──

2015年6月13日土曜日

未 だ 王 化 に 染 は ず

撃則隠草  撃てば則ち草に隠(ふ)せ
追則入山  追へば則ち山に入る
故     故に
往古以来  往古より以来
未染王化  未だ王化に染(したが)はず

未だ王化に染はず (小学館文庫)

2015年6月8日月曜日

「首がとんでも動いてみせまさぁ」とジャック・デリダは言ったのだった

    川島雄三に触れるのは何度目だろう?
 代表作『幕末太陽伝』の名シーンとして、石原裕次郎扮する高杉晋作に「切る!」と船上ですごまれたとき、フランキー堺演ずる「居残り佐平次」がこう見栄を切ってみせる場面がある。
「へ、首がとんでも動いてみせまさぁ」
 これは鶴屋南北『東海道四谷怪談』での伊右衛門のセリフからとったものだろう。川島雄三の読書の幅広さとともに、それを噛み砕き己のものとしてしまう消化力には恐れ入ってしまう。このセリフは一時、『幕末太陽伝』の名セリフとして広がっていたくらいだ。(以下、ややネタバレがあります)

2015年6月4日木曜日

作られた伝統ではない本当の「伝統」というものは全然クールじゃなかったりする

 我が家には一つの「伝統」がある。
  それは、決して明かすことのできない「伝統」である。
  その「伝統」を受け容れるものだけが、我が娘の婿となりうる。
    問うなかれ、問う勿れ、問フ勿レ
    聞ケハ カナラツ
    気カ フレル

2015年6月3日水曜日

無意識はにぎやかではなやかでさわがしいもしくは勅使川原三郎『神経の湖』の感想

    無口な人間ほどおしゃべりだ。
 無口な人間がなんで無口かというと、自分相手にしゃべるのに忙しいからだ。
 しゃべるといっても何かを話すわけではない。頭の中をシグナルの塊のようなものが、拡大したり収縮したり、繁茂したり壊滅したり、成長したり退縮したり、明滅したり散開したり収斂したり回転したり硬直したり、いろいろと忙しいのだ。
 だから、普段じっと黙っている人が語りだすと、とても長くなる。