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日本人が日本人に向かって日本のことを褒めて話すという風潮が近頃目立つようであるが、これは現在の日本においてはたしかにその必要があるからだと思うけれども、そこにちょっと微妙な呼吸があって、それほど変でないものと妙にくすぐったい、もうやめてくれと云いたくなるようなものとがある。
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いきなり引用から始めてしまったが、これは岸田国士が書いた『現代風俗』の中の「或る風潮について」の冒頭部である。(仮名遣いは新仮名に改めた)刊行は昭和十五年だから、太平洋戦争が始まる一年前の話だ。
さらに、ラジオでたまたま耳にした話へと続く。
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せんだって、ある人がラジオで 、日本人の体格が美の標準から云って西洋人のそれより優れていると言うことを論断しているのを偶然聞いた。それはつまり、日本人の生活様式がより自然の理法に適ってい、例えば穀物を主食物とし、膝を折って坐ると云うようなことが、筋肉の付置を最も円満にし、関節の機能を十分に発達させ、西洋人には見られない安定な均整美を作り出しているうえに、戦争に強い原因ともなっているということを熱心に説いたものであった。
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それに対して岸田国士は、日本人の体格を優越的に見るには「洋服というものを廃止しない限り、その解決は困難なのではないか」と語る。
なんというか、こういう具合に価値を転倒させて「実は優れているのだ!」とやるのは、裏返しのコンプレックスがまるっとお見通し(古!)な感じで、なんともやりきれない想いがする。あちらはあちら、こちらはこちらでいいじゃん。
とはいえ、日本文化と呼ばれるもののほとんどが、他所からどう見られているかを過剰に気にすることで醸成されてきた、という部分があることも確かなのであって、こういうクセってなかなか直んないんだろうね。
古本屋なんて商売をやっていると、戦前の大衆向けお手軽教養書みたいなもの(現代でいうナントカ新書の類い)にお目にかかることも多いんだけど、だいたいの感じとして昭和八年前後くらいから、「日本すごい日本エラい!世界中が日本に注目している!!」みたいな内容のものが増えてくる。どんな些細なものでも世界一を誇り、中には「サルマタの生産量が世界一」なんて、どこまで本気なんだか判んないのまであった。国連脱退したことの反動もあるのかな、たぶん。自分で自分を盛り上げてないと、精神的に持たなかったんだろうね。
最近書店でそういう類いの「がんばれ自分!」系の本をちょくちょく見かけるけど、平気なフリしてても実はみんなつらいのかな、と思ったりする。
日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか (PHP新書)
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