アレを食べたらガンになりコレを食べればガンが治る

　娘が何やら学校でチラシをもらってきた。「乳ガンについて」と「子宮頸ガンについて」
　内容はどちらも似通っていて、早期発見がいかに重要か、そのために定期検診を受けましょう、健康な生活を心がけてガンにならないように気をつけましょう、そんな感じ。二つに分ける必要がどこにあるのか良く判らない。これはやはり、鼻の穴がなぜ二つに分かれているか、というのと同じような、人体の神秘というやつなのだろう。
　がしかし、中学生のうちからガンについての認識を高めておこうという意図は判らなくもない。ガンは今でも日本人の死因のトップだ。
　ところで、日本人がガンで死ぬことが多いのは、長寿化して他の病気にかからなくなったから、と言われているけど、人口比でガンの死因が日本よりも多い国って、モルジブとかモンゴルとか、ボリビアとかホンジュラスなんだよね。これらの国って日本より長寿国なんだっけ？統計ってむつかしーね。

 

エクレアナマコ

さて、 Facebookをながめていて知ったのだが、どうやらナマコがガンに効く、らしい。
　このぐにゃぐにゃとどこか猥褻でありながら、酒のつまみにばっちりで、干して戻せば高級中華食材になるという原始的生物に、FrondosideAという物質が含まれていて、そいつがガン細胞をやっつけるのだという。探してみたら、ちゃんと論文も出てた。

Frondosaide a suppressive effects  on lung cancer survival, tumor growth, angiogenesis, invasion, and metastasis
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=23308143

　わーすごい。ナマコなんか食べるのって中国人と日本人くらいだよね。しかも生で食べてんのは日本人だけ。じゃあなんで日本人の死因のトップがガンなんだろう。やっぱ嫌いな人が多いから？お家で常食できないから？こんな研究結果が広まったら、日本近海からナマコが姿を消すかも知れないね。
　似たようなのに、イチゴがガン細胞を殺す、なんてものあったりする。

Extracts of strawberry fruits induce intrinsic pathway of apoptosis in breast cancer cells and inhibits tumor progression in mice.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23071702

　まあ、ビタミンCたっぷりだからね。え、関係ない？
　逆に発ガン性が疑われる側については、パンがある。パンてのは、あの食べるパン。パンダとかじゃない。

Associations of bread and pasta with the risk of the cancer of the breast and colorectum
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24155133

 　えーっと、パンとパスタの発ガン性について、イタリア人をサンプルとして調べた、と。 結果、パンの食べすぎはガンになる。パスタよりも悪い。特に女性は気をつけましょう。
　……って、あの、これ、もし同じ方法でもって日本で調べたら、「お米を食べるとガンになる」とかにならない？大丈夫？信じていいの？

　なんだろう、なんだか、食べたり飲んだりする度に体がでっかくなったり小さくなったりする、不思議の国のアリスにでもなったような気分だ。
　とはいえ、実際ガンになったらこんな「理性的な判断」なんかしてる余裕はなくなるだろう。
　ガンの患者、というとなぜかまっさきに思い浮かぶのは井上光晴だ。
　原一男のドキュメンタリー『全身小説家』において、ガンに罹った井上光晴の悶えが容赦なく映し出されていた。
　その映画で、井上があやしげな薬を売り付けられ、「効かないことはわかってるんだ」とかいいつつ飲むシーンがある。薬を売り付けにきたやつはいかにも胡散臭く、たまたま同席していた瀬戸内寂聴がものすごい目つきで男をにらんだりする。
　人間の表裏に通暁したかのような作家ですら、すがれるものなら藁どころか、道に落ちてるティッシュ程度のシロモノにすがってしまうのだ。
　しかし、こういう人の弱みに付け込む詐欺師がうろうろしちゃうのは、ガンに効くとか発ガン性について調べるとかすれば、論文発表してお手軽な箔がついちゃう学会に責任の一端がありはしないだろうか。

　さて、はじめに戻って、娘がもらったチラシはもちろん女子だけに配られたのだろうと思う。が、男子は精巣ガンについてのチラシをもらったりしたのだろうか？
　精巣ガンについては、かかった人の生々しい治療体験漫画があり、あらためてシャレにならない病気なのだと思い知らされる。もしその時が来たら、「ガンと闘わない」とか言ってられないようだ。
  さよならタマちゃん (イブニングKC)