2014年12月28日日曜日

ニッポンの未来はパニュルジュの羊の夢を見るか?

レミングー壁抜け男 [DVD]

 レミングという有名なネズミがいる。ネズミ算式に増えまくって、増えすぎると集団自殺をして数を調整する、という習性で知られている。
 それは、大戦末期に「一億玉砕」を唱えていた日本人に、ミッキーマウス以上の強い印象を与えた。
 が、実際はほぼ作り話である。
 この話が広がったのは、ディズニーのドキュメンタリー映画 ”White Wilderness”のせいだ。この集団自殺シーンを撮影するために、レミングをかき集めて海へと追い落としたとのこと。
 現代ならグリーンピースが黙っていないだろう。きっとナスカの地上絵の隣に、でっかいミッキーマウスを描いて、その下に「僕たちを殺さないで!」と書きつけるに違いない。そしてペルー政府から怒られたついでに、ディズニーからは著作権料を請求される、というオチになる。
 しかし、たとえデマが元でも、有効なレトリックは生き残る。現状の日本経済の状況について、レミングに例える人もいる。

The Curse Of Keynesian Dogma: Japan’s Lemmings March Toward The Cliff Chanting “Abenomics”
http://davidstockmanscontracorner.com/the-curse-of-keynesian-dogma-japans-lemmings-march-toward-the-cliff-with-abenomics/

「ケインズ主義のドグマの呪い」だってさ。アベノミクスが本当にケインズ主義だったら、今頃消費税なんか逆に減税されてたと思うけど。

 さて、来年は未(ひつじ)年だが、実は羊について、レミング伝説の元になったのでは、と言われている話がある。
パンタグリュエル―
ガルガンチュアと
パンタグリュエル
〈2〉 (ちくま文庫)

 ラブレーの『パンタグリュエル』にあるエピソードで、「パニュルジュの羊 Les Moutons de Panurge」と呼ばれるものだ。
 パンタグリュエルの家来パニュルジュは、船に乗り合わせた羊飼いに侮辱(?)され、復讐を企てる。
 黙って羊の群れに近づくと、そのうちの一頭をかついで海へと投げ込んだ。すると、他の羊たちもその羊の後を追って、どぶんどぶんと海へと身を投げてしまったのだ。羊というのは、一頭がどこかへ駆け出すと、残りの全部もそれについて走っていってしまう性質がある。その習性は羊飼いにもとどめることはかなわず、羊を失った羊飼いはあわれにも一文無しになってしまった。
 ……と、だいたいこんなような話。最後にラブレーは、アリストテレスが『動物誌』の中で「羊は四足類の中でも一番劣悪」と述べている、と付け足す。

 とかく羊というのは、自分からはあまり動かないとされる。なので、草地でほっとくと、たちまち根こそぎ食いつくし、土を踏み固めて不毛の荒れ地にしてしまう。少しづつ動きながら食べさせなくてはならないので、羊飼いはたいていヤギを群れに混ぜておく。ヤギは食べながら移動する習性があり、羊はそれに釣られて動いていくので、土があまり踏み固められない、という寸法だ。
「ハイジ」でもヤギが出て来るのはそういうわけだ。

 では実際に「パニュルジュの羊」のようなことが起こりうるのだろうか?
 てなことを言ったら、ラブレーが地獄を揺るがす勢いで大笑いすることだろう。
 いくら羊が「一番劣悪」な動物だからといって、ただの習性を自分の命より優先させることはないからだ。
 そんなことをする愚かな動物は、人間だけである。
 アリストテレスが「四足類の中で」と但し書きをつけたのは、そういうことかもしれない。

 もしも周りのみんなが海に飛び込み始めたら、どんなことをしてでも船に残ろう。
 卑怯者と呼ばれても、非国民と罵られても、それが羊の生き残る道なのだ。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? 
(ハヤカワ文庫 SF (229))
Blade Runner: Based on the novel Do Androids Dream of Electric Sheep

 

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