2013年10月16日水曜日

街頭インタビューで黙ってたことをここに吐き出しておこう

 今日、店にいく途中で吉祥寺駅から出ると、テレビカメラとマイクを持った男二人にアシスタントらしき女性が、静電気を帯びた糸くずのようにふらふらしてるのが視界に入ってきた。
 なるべく目を合わさないようにしていたのだが、帯電したエボナイトに糸くずがすいよせられるかのように、三人がするすると寄ってきて立ちふさがり、マイクを差し出してきた。
「ちょっとよろしいですかあ〜」
 慇懃にやや早口で申し立てるには、NHKのニュース番組のインタビューであるとのこと。元気だったら「あ、急いでますんで」と振り切るところだが、あいにく先日来風邪にたたられ、へにょへにょになっていた。今の私なら手相の修行とかいう連中にも簡単にひっかかってしまうことだろう。
 覚悟を決めてインタビューとやらを受けることにした。
「最近、若者たちの結婚が減っているのはなぜだと思いますか?」
 もっと質問は長かったが、だいたいこんな主旨だった。
 普段ココで書いてるようなことをまくしたてるのは大人げないことくらいはわかっているので、
「あー、まあ、お金がないからでしょうねえ」
 と曖昧に答えた。
 本当はお金がないだけじゃないよね。その先がある。
 今の世の中、お金がないというだけでひどく蔑まれる。ただ苦しむだけでなく、蔑まれてしまう。誰だって人から蔑まれたくないから、お金がないもの同士で結婚しよう、とはなかなか踏み切れない。
 特に女性はね。でも変だよね、世の中「お金を稼ぐことは正義」「貧乏は怠け者で悪者」みたいなことを言うのに、女性が結婚相手の年収を気にすることをがみがみ言う風潮がある。お金があることがそんなに大切なら、女性が相手の年収を気にするのは当たりまえなのに。
 でもこんなことをだらだら喋るのは求められていないだろうから、黙っていた。
 次の質問。
「政府が街コンなどの若者の出会いを後押ししようとしてますが、どう思われますか?」
 ああ、知ってる。これね。
「婚活イベント」国が支援
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131005-OYT1T00542.htm
 答えるのもアホ臭かったが、てきとうに流した。
「やめといたほうがいいでしょうね」
「え、それはまた何で?」
「そういうことは国が口出しすることじゃないでしょ」
 チャウシェスクやらどこぞの合同結婚式やらが脳裏をかすめたが、黙っておいた。
「なるほどなるほど。では、国としてはどのようにしたらいいと思いますか」
 最初の質問で答が出てるようなもんだけど、ここまできたらおつき合いするのが大人というものだ。
「そりゃ、若者が未来に希望が持てるように、もっと収入が多くなるようにするべきでしょう」
 インタビュアーも私も、実際はもっとモタクサしたしゃべりだったし、もっとつまらないことをいろいろ喋らされたが、だいたいこんなような主旨でおさまった。やれやれ。
 その昔、「貧乏人の子だくさん」という言葉が示す通り、貧しい階層はやたらと子供を作った。それは押しとどめることのできない自然現象であって、どのように人口を抑制するかが大問題だった。
 何のことはない、人々が互いを「値踏み」するようになったら、自然とおさまってしまった。
 やたら企業や金持ちばかり優遇しておいて、人口が減ってきたら「婚活にお金を出します」とか、あのニュースを目にしたとき「政府は国民を、奴隷どころか家畜かなんかだと思ってんじゃないのか」と感じたもんだけど、このインタビュアーのゆる〜いしゃべりからは、「政府もたまにはいいことするよね〜」な空気しか伝わって来なかった。まあ、現状はそんなもんなんだろうね。

 最後、カメラが止まってから記念品(ボールペン)をもらうと、
「あ、失礼ですがおいくつですか?さんじゅう……」
 三十代なんかに見えないことは充分自覚している。本当の年齢を言えば「え、お若いですね〜」と軽くヨイショしてくれるんだろうな、というのがわかった。年を取ると、こういういらんことまでわかってしまう。
 にっこり笑って「六十ですよ」と上にサバ読んで答えておいた。
 インタビュアーが「え」とつまったところで、「では失礼」と立ち去った。
3カ月で結婚できる おとこの婚活本。

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