2015年10月8日木曜日

にっぽんの病い(グロ注意)

 ノーベル賞で日本人の受賞が続き、さぞかしテレビではわいていることだろうが(テレビ見てないので知らんけど)、中国人で初めて科学分野で受賞した屠呦呦氏の功績がマラリアの治療薬だと聞いて、二、三思い出したことを書いておきたい。
 マラリアは現在日本ではほとんど見られない病気だが、明治以前は北海道を含む日本全土で発生していた。媒介するのはハマダラカだから、寒い北海道で流行するのは不思議だが、明治以降も屯田兵のあいだで感染が広まったこともあったそうだ。
 マラリアという名が外から入ってくる前は、「瘧」(おこり)と呼ばれていた。
 病いの度合いなど種類によって違い、初期の発熱を乗り越えると慢性化することもある。
 坂本龍馬は、この「瘧」の発作持ちで、不定期に高熱をだしていたという。
 このことは以前本家のブログで少しふれたことがあったが、そのとき龍馬は梅毒にもかかっていた、とも書いた。
 この龍馬の病歴については、伝聞でしかないため確かなところはわからない。瘧のほうは『竜馬がゆく』だし、梅毒のほうは幸徳秋水が中江兆民から聞いた話、ということだ。
 それはともかく、龍馬のこの二つの罹患歴が本当なら、もしかしたら梅毒の方は治っていた、という可能性がある。
 というのも、梅毒の治療法に、「わざとマラリアに感染させて高熱を出させて梅毒菌を殺す」という無茶なやり方があるからだ。
 あとそれから、高熱のため種無しになっていた可能性もあるな、と思う。

 ついでなんで、梅毒についても二、三。
 日本人は梅毒というものが、深刻な病気だとの意識が薄かったのか、かかっても平気で街を出歩いていた。
 ルイス・フロイスは「我々の間では人が横痃mula(通常「横根」と呼ばれていた)にかかれば常に不潔なこと、破廉恥なことである。日本では、男も女もそれを普通のこととして、少しも羞じない」と書いている。
 江戸時代に至っては、医師橘南谿が「京の人半ば唐瘡(とうも)なり」と記している。唐瘡とは梅毒のことで、唐からきた瘡ということだ。イタリア人が梅毒を「フランス病」と呼び、フランス人は「ナポリ病」と呼んだのと同じようなものである。
 杉田玄白 は「毎歳千人余りも療治するうちに七、八百は梅毒家なり」と言い、松本良順は「下賎のもの百人中、九十五人は梅毒にかからざるものなし」と嘆いている。
 また、出土した江戸時代人の骨にみられる梅毒の痕跡などから、江戸期の梅毒罹患率は成人で54.5%にのぼるそうだ。二人に一人は梅毒だったのである。
 もちろん、吉原においては猖獗を極め、八割方が梅毒持ちだったともいう。しかし、梅毒にかかると体が弱々しくなって客にモテるようになり、しかも妊娠しづらくなったので、娼妓たちはかえってそれを歓迎していたそうだ。とはいえ、梅毒は梅毒だから、最後はぼろぼろになって死ぬわけで、好い仲になった客と心中するのがはやったのも、むべなるかなと思われる。
 江戸時代に梅毒が珍しくなかったことは、落語の題材として取り上げられていたことでもわかる。

談志百席「蛙茶番」「鼻ほしい」









  三遊亭圓生「おかふい 」     

 「おかふい 」と「鼻ほしい 」は、両方とも梅毒で鼻がなくなった男が主人公である。もちろん、現代では両方とも放送できない。(談志のは放送できるように設定が変えてあるそうだが、まだ聞いたことがない)しかし、両方ともまだ高座では時々かかる演目だそうだ。私は「鼻ほしい」の方だけ聞いたことがある。
 まあそんなわけで、長屋の八つぁんも熊さんも、どっちかは梅毒だったんだろうなあ、というのがリアルな江戸時代というものなのだ。
 
 最後にちょっと豆知識。
 漢方薬でノーベル賞をもらった女性(日本にはまだ女性の受賞者はいないよね……。でもノーベル賞を科学分野でもらった女性自体、まだ一七人しかいないけど)、屠呦呦氏の名前の「呦呦(ゆうゆう)」とは鹿の鳴き声からきている。詩経には「鹿鳴」という例の鹿鳴館の語源になった詩があって、それは以下のようなものだ。


呦呦鹿鳴,食野之苹。我有嘉賓,鼓瑟吹笙。吹笙鼓簧,承筐是將。人之好我,示我周行。

呦呦鹿鳴,食野之蒿。我有嘉賓,德音孔昭。視民不恌,君子是則是傚。我有旨酒,嘉賓式燕以敖。

呦呦鹿鳴,食野之芩。我有嘉賓,鼓瑟鼓琴。鼓瑟鼓琴,和樂且湛。我有旨酒,以燕樂嘉賓之心。

 どの連も冒頭は鹿が鳴いてよもぎを食べている、と歌っている。苹、蒿、芩、ともによもぎのことである。
 そして、今度ノーベル賞の対象となった、マラリアの特効薬であるアーテミシニンは、中国語で「青蒿素」という。よもぎの一種から抽出したので、この名があるそうだ。
 なんというか、中国四千年の歴史!とか叫んでしまいたくなる、そんな不思議な縁を感じる話である。
 ちなみに、中国ではとっくに話題になっているようだ。
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