『フランダースの犬』といえば、幼い心にトラウマを残す定番の物語だ。世界名作劇場のアニメで知っている人も多いだろう。左に掲げたのはよく知られているのではなく、ほとんど忘れられた別バージョンだが。
なぜ『フランダースの犬』がショックかと言うと、純粋で正直で美少年で(そういう設定なのだ)絵の才能があっても、貧乏にはかなわない、という現実をまざまざと見せつけてくれるからだ。みんなビンボが悪いんや、は絶対普遍の真理なのである。フランダースというのはオランダ南部からベルギーの北半分にまたがる地域で、作品の舞台となった村はホーボケンという名で、アントワープ(アントウェルペン)の隣にあるとされる。
主人公のネロが見たがってた絵というのは、そのアントワープの聖母大聖堂にかざられている二枚のルーベンスの絵だ。
ルーベンス「キリスト昇架 The Raising of the Cross (Triptych). 1610」 |
ルーベンス「キリスト降架 The Descent from the Cross (Triptych). 1610 」 |
さて、ルーベンスは一般に「フランドル絵画」という分類になっている。
フランドル、ってのは、フランダースのこと。てか、この地域のことを「フランダース」と呼ぶのは、日本じゃ「フランダースの犬」くらいのもんだ。
この救いのない物語の作者ウィーダ(ルイーズ・ド・ラ・ラメー)はイギリス人なので、フランドルが英語読みでフランダースになった。
そして、イギリスとフランドルには浅からぬ歴史的な因縁がある。
それは、経済学史から見ても重要な「因縁」だ。
イギリスにプロレタリアというあぶれもんがあふれ出すきっかけとなったのは、トマス・モアが「ヒツジが人を喰ってる」と『ユートピア』で非難した「囲い込み」enclosureが元にあって、マルクスがこれに着目し、イギリスの労働者「階級」てのはこれによって形成された、とした。
この「囲い込み」てのは、封建領主が農民を追ん出してヒツジを飼ってもうけようとしたからで、そのときの毛織物の輸出先が「フランドル」だったのだ。
冒頭に上げたアニメにも羊飼いが出てくるが、その昔フランドルは羊毛の加工とその商品化、そして流通の拠点として有名だった。中世の頃からイギリスはフランドルに羊毛を輸出していたのだが、エドワード三世が羊毛の輸出を禁じ、フランドルの毛織物職人をイギリスに招き寄せた。
そしてフランドルはぼろぼろにおちぶれ……たわけではなかった。むしろ打撃を受けたのはハンザ同盟の商人たちであり、イギリスの新興貴族gentryたちだった。
……すいません、次回に続きます。
0 件のコメント:
コメントを投稿