2014年8月25日月曜日

【まだ途中なんだけど愛国心はどこからくるか編】もしも西荻窪の古本屋がピケティの『21世紀の資本』(PIKETTY,T.-Capital in the Twenty-First Century)を読んだら

「一所懸命」という言葉がある。今ではほとんど「一生懸命」に言い換えられてしまうが、本来の言い方はこっちの方だった。意味は文字通り「一つの所に命を懸ける」ということである。昔の武士が自分の所領を命がけで守ったことからきている。
 昔の日本人にとって、財産とは「土地」とイコールだった。別にこれは日本だけのことではなく、英語でもproperty(財産)は、土地の意味も持っている。
 財産propertyとは何か。それは本来、金銭などには替えがたいもののことである。その昔、武士や百姓にとって、土地というものは命懸けでやりとりするものであって、金銭で売買などできないものだった。よく知られた「徳政令」などは、「土地を本来あるべき持ち主に返す」のが目的だった。それが借金帳消しを伴ったというだけのことである。

 なぜ命を懸けるかというと、財産は自らの子孫の繁栄の礎となるものだからだ。つまり、世襲的なものとなって、初めてそれは財産と呼べるのである。自分一人だけのものではなく、次代へと継がせねばならないものだからこそ、自分一人の命よりも重大であったのだ。
 では財産のないものはどうするか。もしくは、奪われてしまったものはどのようなものに命をかければ良いのか。
 昔の武士はそれを「名」に見出した。「名を挙げる」「名こそ惜しけれ」武士の名、というか苗字はほぼ土地の名から来ており、その「名」を挙げることは、土地という財産の価値を上げることにつながった。やがてその行為は独立し、命を懸けて「名」を挙げるという振る舞いのみが行われるようになる。
 土地という裏付けがなくても、「名」が財産となったのだ。
 戦国時代も終盤になってくると、儒教の忠義などと結びつけられ、名を挙げるべく主君のために戦って死ぬ、という行為を生み出すようになった。
 そして、土地を持たずとも武士として「名」を持つ人種が生まれた。この人種は己の「名」のために命を懸ける。それに対して百姓も一所懸命であることは確かだが、土地を持たぬ百姓はほとんどおらず「名」に命を懸けることはしなかった。
 そして時代は明治となり、近代とともに資本主義が導入され、土地は金銭に換算してやり取り可能なものとなった。江戸時代からその兆しはあったが、財産の主役は巨額の金銭となり、それとともに、財産や「名」のために命を懸けることを、「恥」のように考える風潮も生まれた。(これが昔からあったように語るのは、小説の類いなんで)
 しかし、財産が次世代に受け継がれるものである以上、己の命はもちろん、国家などよりも大切であることには変わりなかった。

 さて、ここから本題。前振り長くてすんません。
 明治になって「国家」というものが眼前に立ち上がってくると、無産の民衆はこれをもって「財産」の代わりとした。
 これが世上「愛国心」と呼ばれるものである。
 と・こ・ろ・が、ここに一つの問題があらわれた。
 財産を持つものは、どうしても自分の財産が大事であって、何も財産のない人間のように「愛国心」を持つことができなかったのだ。
 そこでどうしたかというと、みんなその問題について「見ない振り」をした。そして、財産を持つ人間は、愛国心を持つ「振り」をした。
 いやー、だってそこんとこ突っ込んだら資本主義否定しなくちゃなんないし。ねえ知ってる?今世界で一番「愛国心」という言葉の使用頻度が高いのって、北朝鮮なんだよ。
 戦前、民衆のほとんどが貧しい時代には、無視してもなんら不都合はなかった。
 ところが戦後、高度経済成長を経て「一億総中流」になってくると話が違って来た。みんな自分の財産を持つようになると、国家のことなんか二の次三の次になってきたのだ。
 そして……

 ここでまた次回に。今回全然ピケティに関係ない話だけど、次回でつながりますんでどうかご容赦を。
人間の条件 (ちくま学芸文庫)
ちょっとここで要点をまとめると
・財産を持たない民衆にとって国家は財産の代用品である。
・財産を持つものに愛国心を持たせるのは無理である。
・だから財産を持つ人間がそれ以外の人間に「愛国心を持ちなさい」と言い出すのは、「そろそろ君たちの財産をこっちへ寄越しなさい」ということなのだ。そして、それをごまかすのが「国のために命を捧げる」とかいう、ドラマチックでドラッグみたいなセリフなわけ。
 あ、一応ここまでの財産についての考察は、ハンナ・アーレントの『人間の条件』を参考にしている。あくまで参考だけど。
 では次回につづく。

自由国債買えや

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以下、続いて書かれたエントリーのリンク集。
読み進むにつれて触発され、「財産」が「世襲」される時に経済的な事象を越えた振る舞いをする、ということについて書こうと思いました。が、あまりに大きなテーマだったので途中で切り上げました。また勉強しなおして、取り組みたいと思います。

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