ある日モスクワのピザハットにゴルバチョフが来店した。ピザをぱくつくゴルバチョフをめぐり、客たちが騒いでいる。「やつはロシアの政治をがたがたにしやがった」とかなんとか。日本でもちょくちょく出前のバイクを見かけるピザハットのCMだ。
ゴルバチョフという、この旧式の目覚まし時計みたいな体型のおっさんが登場した時の衝撃は、今でもよく憶えている。私が生まれる前から続いていて、きっと死んだあとも続くと思われた「冷戦」というやつが、あっという間に燃やされ燃え尽きてしまったのだ。バター祭のマースレニツァ人形みたいに。おかげで、冷戦で食ってた軍事評論家やスパイ小説家が失業し、ソ連を標的にした映画が山ほどお蔵入りになった。ハリウッドは慌てて『レッドブル 』なんて映画を作ってたっけ。主人公のロシア人刑事を演じたのはシュワルツェネッガーだった。
上掲のCMではゴルバチョフを非難する人や評価する人がいて、それをなんとなく「ピザ」でまとめているが、実際ロシアでのゴルバチョフの評価は今でも散々だ。
False Story about Gorbachev Death Unleashes Wave of Hate
http://www.spiegel.de/international/world/false-story-about-gorbachev-death-unleashes-wave-of-hate-a-915670.html
去年、ツイッターで「ゴルバチョフ死去」の誤報が流れるや、彼を追悼するどころか、悪し様に罵倒する声がネットにあふれ返った。すぐに誤報とわかり、訂正が入ったのだが、ゴルバチョフを「売国奴」と罵る声はしばらくやむことがなかった。
理由は色々考えられる。ペレストロイカと言いながら、共産党を温存しようとした、バルト三国の独立を認めようとしなかった、自分が酒に弱いからってウォトカの流通を制限した、その他いろいろ。
しかし、なんといってもチェルノブイリ原発事故の暗い記憶が、彼とともに呼び覚まされてしまう、ということがあるのではないだろうか。グラスノスチ(情報公開)のはずが事故を隠し、被害を拡大させたといわれる。チェルノブイリは、皮肉なことに、お蔵入りになったはずの冷戦もののシナリオが再演されているウクライナに存在する。
ゴルバチョフはこれまでの書記長とは違って報道の自由を出来るだけ尊重した。出来るだけ、ではあったが、ロシアのある種の人々にとってはそれで充分だったようだ。こうしてソ連に初めて登場した「マスコミ」は、「書記長はバカだ」と叫ぶと国家機密漏洩罪になるという有名なロシアジョークにのっとり、「機密を漏洩」しまくったのだ。
ノーベル平和賞を受賞したことからもわかる通り、ゴルバチョフの海外での評判はサンタクロース以上のものがあったが、ロシア人たちは罵りまくる「マスコミ」の方を信じた。そして、今も信じている。菅直人がBBCでは英雄として報道され、今もそのままの評価なのと似た構図だ。日本人は菅直人の仏頂面を見ると、ついフクシマが思い出されて暗い気持ちになる。
一九九一年八月、ソ連にクーデターが起きた。ゴルバチョフはクリミア半島の別荘でくつろいでいたところ、そのまま軟禁された。クリミア半島というのは、今ロシア軍(じゃなくて武装勢力なんだっけ?)が押さえているあの自治共和国だ。
クーデターは三日で終った。
ここで、ゴルバチョフとは正反対の「ウォトカ呑み」エリツィンが表舞台に出てきた。ロシアの大統領になるやすかさず、ゴルバチョフが布いたウォトカの制限を解除して民衆の支持を得たという。ほんまかいな。
ついつい長くなってしまったので、また次回。
本題はまだこれから。
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