デフレ脱却デフレ脱却と勇ましいかけ声が永田町方面から響く中、吉祥寺駅前には驚安の殿堂ドンキホーテがどどんと進出してきた。代わりに無くなったのは、中途半端なブランド化で不思議とお高い無印良品だ。
ドンキホーテでは生活に必要なものはほとんど、そして不必要なものも山ほど安売りしている。おまけに二十四時間営業だ。
デフレってのは、ものが安くなることじゃない。「安物」が出回ることだ。少なくとも現代の日本ではそうなっている。だけど安さに釣られちゃ行けないと思いつつ、ついつい手が伸びる。気分は狂言「釣狐」のキツネだ。
安売りに弱いのは主婦だけじゃない。実はおっさんだって弱い。とくに私は弱すぎる。なんたることか。今日も半額シールが貼られた刺身の前に立ち尽くす私がいる。
どんなに安くたって、「買わない」以上の節約はない。そんなことはわかっている。
そうとも、今まで安物にとびついて、どれだけイタい目に遭った?
思い出せ!一袋百円だった永○園のそうめんの、あの砂を飲んだようなのどごしを。お前はその時、この世に生まれてきたことを悔いたのではなかったか。
思い出せ!ペットボトルに入ったエキストラ・バージン・オリーブオイルの、あの鼻腔にカナブンが飛び込んだような香りを。お前はその時、バージンなんて信じるやつがバカだとと己を罵らなかったか。
思い出せ!電気代が安くなるからと二千七百円もはたいたLEDが一年と立たずに切れたときのことを。お前はその時、どうせ十年という時間などあっという間だからとわけのわからないことを言って己を慰めなかったか。
思い出せ! 三千五百円のDVDプレーヤーが、レンタルのDVDをくわえ込んだまま吐き出さなくなったときのことを。お前はその時、理不尽にもすべてのレンタルショップよ滅べと呪いをかけたのではなかったか。
思い出せ!買ったばかりのUSBメモリが反応しなくなり、顧客データが取り出せなくなったときのことを。お前はその時、将来モンゴルの奥地でパソコンのない生活を送ろうと決意したのではなかったか。
思い出せ!思い出せ!思い出せ!
二度と同じ轍は踏まないと、明けの明星に誓ったじゃないか、ピョートル!(←誰?)
「安物買いの銭失い」とは、オッサンのためにあるセリフだ。
今世紀最大の「銭失い」はやっぱり原発にとどめを刺すだろう。
運転費用が安い、ウランが安い、とにかく安い、安い安いでやってきてこの有様である。
それにもこりずに「やっぱ安いから」と、ベースロード電源とか呼んでまた安物買いしようとしている。
そんなのは、ネジのゆるんだ圧力釜を買うのと同じだとなぜわからないのか。誰かとめろ。
原発のコスト――エネルギー転換への視点 (岩波新書)
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