2014年3月17日月曜日

人はいつ書物を憎悪するか

 数日前に逮捕された男が、『アンネの日記』を破って回ったのは「自分だ」と供述した、とのニュースがあった。
Anne Frank Book Defacer Arrested in Tokyo http://www.hngn.com/articles/26558/20140314/anne-frank-book-defacer-arrested-in-tokyo.htm
Japan arrested man over Anne Frank book vandalism
http://digitaljournal.com/news/world/japan-arrests-man-over-anne-frank-book-vandalism/article/376588
 とまあ、海外でも詳しく報道されている。とはいえ、被疑者の氏名すら不詳のままでは論評するにも限界がある。
 わずかに漏れてくる報道によれば、被疑者は男性で、「『アンネの日記』はアンネ自身が書いた物ではない、と批判したかった」などと供述しているという。
 日記の真贋については長い論争のすえ、原本の綿密な筆跡鑑定等によってすでに決着がついている。証明の過程は『アンネの日記―研究版 』において数多の図版とともに公開されている。

アンネの日記―研究版

  ただ、最初に出版された『日記』(本来のタイトルは『隠れ家』)に加筆と削除があったのは確かで、それが今も愚か者を生み出す「すき間」になっている。ゴキブリが住み着きやすい冷蔵庫の裏のような「すき間」だ。
 しかし現在、その「すき間」はぴったりふさがれている……はずだったのだが。

アンネの日記 (文春文庫)
さて、本を破ったのは顔も名前もわからない男だが、一つだけ確信を持って言えることがある。
 この男は本を読んでない、ということだ。
 もちろん『アンネの日記』も。
 そしてさらに、それについて深く知る機会があったとしても、かたくなに顔を背け続けてきたことだろう。
 さらに加えて、この男は自ら一般以上の「知識人」と任じているはずだ。もしかすると、「自分はすごい読書家」とか「勉強家」だと思っているかも知れない。

 読んでもいないのに、読んだつもりになっている。
 知りもしないのに、知ったつもりになっている。
 わかりもしないのに、わかったつもりになっている。
 人がこうして背伸びをするとき、おおよその場合、「怒り」を踏み台にする。
 全世界と対峙してそこに「怒り」をぶつけるとき、すべてを凌駕した「超人」となれるような気がするからだ。
 こういう段階って、今はすっかり踏み越えやすくなってしまった。 インターネットのおかげですな。
 しかしてその実態は、子供がウルトラマン変身ごっこで遊ぶのとたいして変わらんのだが、困るのはご当人が「やばいくらいに本気だぜ」、だったりするところだ。
 出口のない「怒り」は、具体的な対象を得ることで「憎悪」へと変身、いや変質し、今回は図書館に侵入して本を破くという行為に及んだわけだ。

 日本の司直は、これでなんとか穏便に幕引きしようとしているようだ。
 でもね、こういうのって、ことあるごとに蒸し返されたりするんだよ。
 つるかめつるかめ。

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