2016年2月17日水曜日

社会が進歩するとかしないとか認識できる機会は書物の中に多く含まれている

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…………結婚して独立するのは、経済的かつ精神的な成熟を獲得してからにしろというのは、社会の正当な要求です。しかし、生き残り競争が激化したために、男の経済的な自立がだんだんと難しくなってきています。職場や生活技術の複雑な要求は、精神的自立をますます遅らせます。他の人の生活の責任を負い、子供をちゃんと養育するには、しっかりした性格が必要ですが、そうした性格は、さまざまな困難な状況や、迷いや、経験などを経て形成されてくるものです。したがって、男がきちんとした形で妻をもてるようになる時期は、ますます遅くなります。それに対して、身体の造りはこれにならうことはしません。性衝動は、昔同様に、かなり早い時期に目覚めます。文化が高度になればなるほど…………
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 のっけから引用で始めてしまったが、この文章はいつ頃書かれたものかおわかりになるだろうか。つい最近どこぞの論壇誌からの引用だ、としても十分に通用しそうだ。
 実はこれ、ゲオルグ・ジンメルによる『現在と将来における売春についての覚え書き』から抜き出した文章である。しかもこの論文が書かれたのは一八九二年、十九世紀のことなのだ。
 しかしこの文だけでなく、その他の部分も現代社会に対して示唆的な要素を多分に含んでいる。

ジンメル・コレクション
 (ちくま学芸文庫)
    ここから何がわかるかというと、人類ってやつは「若者の結婚」という問題について、ずーーーーーーーっと答えを出せないでいる、ということだ。
 少なくとも百年以上。
 それでなにかゴタゴタが起きると「最近の若いもんは!」とキレたり、大して効果のない法令を山ほど作ってごまかしてきたのだ。
 ジンメルは「すぐに解決できることじゃないし、規制すればいいってことでもない。とりあえず男女を平等に扱うようにしていくことから始めよう」という意味のことを提言している。
 哲学者であり社会学者であったジンメルには、こういう問題には小手先のごまかしでは通用しない、ということがよくわかっていたのだ。

 ジンメルという人は、いわゆる「ちびのユダヤ」だったにもかかわらず、とってももてたそうだ。女性や恋愛についても著作を残している。哲学者としては異例といっていい。
 もうちょっと評価されても良いと思うんだけどね。

貨幣の哲学
社会学―社会化の諸形式についての研究〈上〉
社会学―社会化の諸形式についての研究〈下〉

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