2014年10月23日木曜日

【ちょっとここでピケティがどんな批判にさらされたか振り返りつつ整理してみる編】もしも西荻窪の古本屋がピケティの『21世紀の資本』(PIKETTY,T.-Capital in the Twenty-First Century)を読んだら

 前回の続きで、今度はもう少し真面目なやつ。
 デロング教授によるピケティ批判の分析だ。
 その分析の前に、ピケティの本の要点について、すっごくわかりやすくまとめてくれている。やっぱ餅は餅屋だよね。
 

The Right’s Piketty Problem

>1. A society’s wealth relative to its annual income will grow (or shrink) to a level equal to its net savings rate divided by its growth rate.
「社会の富は、その年の総所得の成長(もしくは減衰)と関連し、純貯蓄率を成長率で割ったものと等しくなる」
(訳者注:ピケティの示した公式β=s/gのこと。βは資本所得比率capital/income ratioで、富の蓄積の総計を表す。つまり社会の富society's wealth。そしてsは貯蓄率saving rateで、減価償却を除いた純粋netなもの。gは成長率growth rateで、もちろん経済成長率のこと。これは生産と人口の伸びをあわせたものとされる)

>2. Time and chance inevitably lead to the concentration of wealth in the hands of a relatively small group: call them “the rich.”
「時間の余裕とチャンスの不平等は、少数の身内のグループ、所謂「富裕層」の手中へと富を流し込む」

>3. The economy’s growth rate falls as the low-hanging fruit of industrialization is picked; meanwhile, the net savings rate rises, owing to a rollback of progressive taxation, the end of the chaotic destruction of the first half of the twentieth century, and the absence of compelling sociological reasons for the rich to spend their incomes or their wealth rather than save it.
「経済成長率は、工業化による成果の収穫(訳者注:手の届く範囲のフルーツをとりあえず根こそぎとっちゃうみたいな)が進むに連れて落ちていく。そうした中で、累進課税の効率が下がったことや、二十世紀前半のぐちゃぐちゃの混乱の終わりと、確かな社会学的事由もなしに(注:なんかの皮肉だと思うけど何か判らん)お金持ちたちが所得や富を貯蓄する以上に使いだしたことで、純粋な貯蓄率は上がったのだった」

>4. A society in which the rich have a very high degree of economic, political, and sociocultural influence is an unpleasant society in many ways.
「金持ちばっかりが経済や政治や社会の文化全般に影響をもつような社会なんて、いろんな意味で嫌んなる」

>5. A society in which the wealth-to-annual-income ratio is a very large multiple of the growth rate is one in which control over wealth falls to heirs (中略); such a society is even more unpleasant in many ways than one dominated by a meritocratic and entrepreneurial rich elite.
「富(注:蓄積された富裕層の)の年間所得率が成長率の何倍にもなってて、その富が相続人どもの手にコントロールされるだなんて、まったくもって願い下げ。実力主義でのし上がった起業人が偉そうにしてた方がましってもんだ」

 んで、マット・ローニルMatt Rognileは4を批判してて、やっぱ使い切れないほどの富の蓄積が、文化ってモノを生むんじゃん?、と堀田善衛のようなことをおっしゃる。
 タイラー・コーエンTyler Cowenも似たような感じ。この人のブログは経済に限らず、いろんなことを書いてるので愛読してる。たまに変なことを言ってコメ欄が炎上するのもご愛嬌。
 まあ、ゲーテとか、普段の生活に困らない人が偉大な文化をもたらした、てのは否定できない一面でもあるけどね。
 その他は

>Still others have waved their hands and hoped for a new industrial revolution that will create more low-hanging fruit and be accompanied by another wave of creative destruction. Should that happen, more upward mobility will be possible, thus negating (2) and (3).
「まあその他大勢はいやいやいやと手を振りつつ、もっぺん産業革命があってフルーツとり放題になって、創造的破壊の波が来るはずだよねえ、なんて待ち望んでたりする。そうなったらさ、もっと上の方に(富裕層の方に)昇りやすくなるじゃん、てなふうに2.と3.とを非難してる」

 とまあ、ここらあたりまでは批判の中でもまともな方。
 以下はちょっとパラノイアックな感じ。

 クリーブ・クロックClive Crookはピケティのデータ分析に文句を付けたあげく、異常者呼ばわり。この記事はけっこう話題になったけど、今ではただの揚げ足取りみたいに言われてる。

>There's a persistent tension between the limits of the data he presents and the grandiosity of the conclusions he draws. At times this borders on schizophrenia.
「彼が示したデータの限界と誇大な結論づけには、ありえないような繋がりがあるんだ。統合失調症ぎりぎりの」

 てなふうに、異常者の妄想めいたレッテルを貼ろうとしてるし。
 次にジェームス・ペトコウキスJames Pethokoukisはこうつぶやく。

>Karl Marx wasn’t wrong, just early. Pretty much. Sorry, capitalism.#inequalityforevah
「カール・マルクスは間違ってなかった。ただ早すぎただけだ。てのがピケティなわけ。ざーんねん、資本主義だからね。格差は永遠さー

 でたでた。とりあえず目障りなもんには、マルキストって封印しとけ、みたいな。十九世紀くらいまでの「無神論者」てのも、似たような使われ方したんだろうなー。

 そしてアラン・メルツァーAllan Meltzerに至っては、

>at MIT, where...the [International Monetary Fund’s] Olivier Blanchard, was a professor....He is also French. France has, for many years, implemented destructive policies of income redistribution.
「MIT教授の、(それとIMFの)オリバー・ブランシャール、彼もフランス人だよねえ。フランスってのは、ずっと長い間、政治の混乱と所得の再分配を実行してきたんだ」

 ……えーっと、あの、「ぜーんぶ、ふらんす人の陰謀」てことでよろしいか?
 どっかからツッコミがあったのか知らないが、これの元記事は消されている。あー恥ずかしい。

 ほっくり返せばまだまだでてくるんだろうけど、とりあえずこの辺で。



 追記。
 一応、英訳読了。やれやれ。
 でも二章の前半と三章の後半は、もっぺん読み直さんとなーと思う。









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以下、続いて書かれたエントリーのリンク集。
読み進むにつれて触発され、「財産」が「世襲」される時に経済的な事象を越えた振る舞いをする、ということについて書こうと思いました。が、あまりに大きなテーマだったので途中で切り上げました。また勉強しなおして、取り組みたいと思います。

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