昭和七年の刊行だから、満州事変の一年後。六月というからには、世間の話題は坂田山心中事件でもちきりだっただろう。「天国に結ぶ純潔の悲恋」は、ただでさえ不安定な世上を揺るがし、二百人に登る後追い(?)心中ブーム(??)を巻き起こした。
で、この本なんだが、法学博士とやらが書いただけあって、当時の事象が淡々と記されていて興味深い。とくに人口の増減について多くの紙幅を割いており、「どのようにして優良な人間を増加させるか」などという優生思想が、とてもナチュラルに綿々と綴られている。
その辺のあれこれはまたの機会に譲るとして、意外だったのは戦前の離婚の話だ。
えーと、あやふやな記憶をたぐり寄せると、確か私がまだ小中学生だった頃、世の中の評論家センセイ方はアメリカの離婚率の高さを揶揄し、「日本人には家族を大切にする美徳があるから、そのようなことにはならない」と高らかに宣言しておられた。
ま、今やその宣言も赤っ恥もので、二分に一組は離婚する現状については、「戦後民主主義がもたらした個人主義がどーたらこーたら」と定番文句をこぼしているだけになっている。でしょ?
その反動なのか知らないが、戦前の日本は信じられないほど美しい国で、妻は夫を板割りつ、じゃねえや、労りつ、な世界が現実に存在していたのだ、 てなことをおっしゃっている。まあそこまであからさまじゃなくても、遠回しに臭わすくらいのことはしょっちゅうだ。
じゃあ、ってんで、この戦前の本を繙いてみるってえと……
なんと、諸外国に比べて日本の離婚率の「多さ」をなげいているんだよね。
ちょっとリストを引用してみる。(旧字は新字に修正。難読国名はカッコ内に読み方)
…………
結婚千に付離婚(約十年間平均)
英吉利(イギリス) 二
瑞西(スイス) 四二
墺太利(オーストリア) 八
独逸(ドイツ) 二〇
仏蘭西(フランス) 三一
合衆国 八二
日本 一七七
…………
いやあ、すごいね、日本。ダントツの三ケタ。
著者である法学博士下村某は以下のようになげく。
…………
……我国に在っては当事者相互の全然諒解を離れたる結婚も尚少なからざるがため、殊に男子の側は女房と畳は新しいに限るというが如き、古代より伝統的の極めて勝手のよい主張の濫用があり、しかも一方には婦人は結婚そのものには盲従せねばならない上に、一度家を出たる以上死すとも再度帰らずというが如き絶対無我の服従も、時代の思潮は自ずからこれに堪えず、父兄もまたこれを強いざるに至れるため、近年著しき離婚率の増加を示すに至った……
…………
考えてみれば、「嫁しては夫に従い、老いては子に従う」だのなんだの、口やかましく言うってことは、それだけそうしたことが守られてなかったって証拠みたいなもんだわな。
ま、戦前に比べりゃ、日本の離婚率の順位もずいぶん下がったもんだよね。
今やアメリカにすっかり水をあけられてるんだから。
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/9100.html |
こういうのは各国それぞれの事情があるんだから、多かったらどうとか少なかったらどうとか、そんなことを言うのはあほらしい、ってことだね。
同じ国の中でも年数が立つと、こうして勝手に勘違いした自己イメージが出来上がってたりするんだから。
「別れる理由」が気になって
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