ドイツのハイパーインフレというやつは、今もって謎が多い。「ユダヤの陰謀」だとかいうアホもまだ生き残っていたりする。あと、わりと多い勘違いが、「ヒトラーがハイパーインフレを解決したので政権を握ることが出来た」というやつ。これ、ちょっと歴史を調べれば、ぜーんぜん違うことがわかる。だいたいハイパーインフレが解決してマルクが曲がりなりにも大人しくなったとき、ヒトラーはまだオーストリア国籍だったのだ。
このようにして、しょーもない「実はナチスすげえ」神話ってのは、二一世紀においてもタムシのごとくはびこっていて、けっこうな社会的地位にある人ですら、「ナチスは戦争と虐殺はしたが、経済政策は成功した」と信じていたりする。困ったもんだ。
ウィキペディアの記述 |
ウィキペディアあたりにもそう書いてあって頭が痛いのだが、実際のレンテンマルクの構想者はヘルフェリッヒであり、シャハトはむしろその案に強く反対していたのだ。
一九二三年十月六日付けの書簡において、シャハトはときの首相シュトレーゼマンに向けてこのように論難している。
「健全通貨はただ金本位通貨のみである。その他の通貨は特に我が国のような経済状況の下では、再び崩壊に向う」
「まだ終りの見えない財政赤字を通貨の発行でカバーすることは財政政策のもっとも重大な誤り」
などなど。
シュトレーゼマンは改造内閣において、いったんはシャハトを財務大臣に予定しながら、レンテンマルク構想についてシャハトが頑として反対したため、ぎりぎりになってルターを就任させている。
レンテンマルクはシャハトの予想とは逆に、「奇跡的な」効能を見せてインフレを沈静化させた。
シャハトの代わりに大臣となったルターは、ナチス好きからちょくちょく無能呼ばわりされるが、彼はレンテンマルクがインフレに作用しつつも、レンテンマルクを裏付けるレンテンバンク証券の発行が通貨流通速度を抑制し、インフレ作用を打ち消すだろうと予測していた。そして、その予測は図に当たった。
一方シャハトは、のちに書いた自著においてすら「レンテンマルクはまちがいだ」としつこく述べている。
ちょっと念のため書いておくと、ヒトラーが成功したように見せかけた経済政策は、ほとんどが共和国時代にエーベルトによってなされたものである。アウトバーンですらその構想はナチス以前からあり、フォルクスワーゲンは語られるほどには普及していなかった。
景気の良い見せかけは「メフォ手形」という、空手形どころか手形詐欺に近いものによってもたらされた。この破綻を隠すために、レーベンスラウムがどーしたとかわめいて他国を侵略した、というのが実際のところである。
まあ、愛国心たっぷりな方が「じつはナチスは〜」と語りだしたら、眉にたっぷりつばを付けておいた方がいいということだ。
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