『僕達急行 A列車で行こう』予告編
森田芳光という映画監督がいた。と過去形で書くことに微妙な抵抗感を覚える。それくらい、映画界に「なんかしらんがいつもいる」ような存在感がある監督だった。「原作がクズで脚本がカスで演出がアホで役者がダイコンでも、森田が監督すると何とかなってしまう」という評を読んだのは、確か朝日ジャーナルのコラムだったんじゃないかと思う。同誌の別の号ではヴェンダースと対談して、「やっぱりハードボイルドっていいよね」と意見が一致したりしていた。
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この『僕達急行』はちょっと変な映画で、どのように「変」かというと、「なんかおかしい」映画なのだ。
そう、「なんかおかしい」
おもしろいか、つまらないか、と訊かれれば「なんかおかしい」
ださいのか、かっこいいのか、と訊かれれば「どっか微妙」
良いのか、悪いのか、と訊かれれば「あえて言うなら間が悪い」
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で、この「なんかおかしい」「微妙」「間が悪い」てのは、もう三十年くらい前から若者の中に一定数いるとされる、「オタク」の特徴そのもの、てななわけなのだ。
主人公二人は鉄道オタクなんだが、この映画自体がオタク世界のオタク次元にあり、いかにも「映画オタク」がつくりましたみたいになっている。もちろん、ワザとだろう。
基本は昔の日本映画、それも芸術的なのじゃなくて「社長シリーズ」とか「駅前旅館シリーズ」のアレで、画面の色調、構図、カメラワーク等々、昔のクーラーもなかったころの映画三本立てとか見てた世代は、へんてこなノスタルジアに襲われてしまう。
しかも恐ろしいことに、演出やカメラが、唐突に小津だったり成瀬だったり木下だったりして、そしてまたそれがまったく効果的に使われてなくて、全然どうでも良いシーンで小津だったりするもんで、ヴェンダースあたりが見たら悶絶死するんじゃないかと心配になる。蓮実重彦なんかに見せたら殺されるなー。あ、もう死んでるんだったか。
「ぴあ」の特集号に、「いつまでもいると思うな森田芳光」と書かれてしまうような、そんな立ち位置にいた監督なので、もういないと思いつつもなんとなく新作を待ってみたくなるような、そんな不思議な気持ちにさせられてしまう、なんとも困った存在感を持っている。
「こんなすごい人はもう二度と現れないだろう」などというのでは全然なく、「誰でもいいから跡を継いでやってくんないかな」と星に願いをかけてみたくなるのだ。
「こんなすごい人はもう二度と現れないだろう」などというのでは全然なく、「誰でもいいから跡を継いでやってくんないかな」と星に願いをかけてみたくなるのだ。
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