2015年8月6日木曜日

夏のおもひで

夏の終り


 子供の頃住んでいた家は、庭に防空壕があった。
 ただ穴を掘っただけのものではなく、コンクリートで固められたもので、「百キロ爆弾の直撃にも耐える」というしろものだった。
 叔父が「ほんなもん、ほんまに直撃しよったら、防空壕は壊れんでも中の人間はショックでみんな死んでまうわな」と笑っていた。
 形は丸く、大昔の古墳に似ていた。何か大きな動物がそこに背を見せているようでもあった。
 防空壕にはすっかり雨水が溜まっていて、樹々に囲まれて昼なお暗く、その水が干上がったことは一度もなかった。

 戦時の歴史に詳しい人によると、「当時コンクリートはすべて軍に優先されていたはずだ。個人の家庭でそんなに使えるはずがない」という。
 おそらくは、官舎代わりに住まっていた将校たちが、なんらかの伝手でどこからかガメてきたのだろう。いざとなったら自分たちも隠れるために。

 その家を壊すとき、いちばん難儀だったのがこの防空壕だった。
 ブルドーザーでつっこもうが、クレーンでひっぱたこうがびくともしないのだ。
 発破を使えればいいのだが、見える範囲に民家があってそれもできない。
 結局どこからかパイルドライバーを借りてきて、上から突き崩したという。ちなにみ、このときの運転手は事故で死亡している

 夏休みでその家に帰った時、必ずその防空壕にのぼった。
 防空壕の上には大小数本のパイプが刺さっていた。空気穴としてである。
 そこからのぞくと、薄暗い水面に自分の眼がぼんやり映っているのが見えた。

 夏の今頃になると、あの頃のことを思い出す。


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