近所にはたけし君という子がいて、ちょくちょく遊んだ。図々しいガキだった私は、よくたけし君の家に行き、いない時でも勝手に上がり込んでこたつで漫画を読んでいたりした。
しかし、たけし君が私の家に来ることは一度もなかった。
たけし君のお祖母さんはよく顔を見せたが、それでも土間に入るだけで、履物を脱ぐことはなかった。長い話をするときでも、上がり框のような靴脱ぎに腰をかけるだけだった。祖母はかならず屋内で立ったまま応対した。
幼く、そして鈍感な私はそれについて、何も不思議に思わなかった。
たけし君の家が、元小作人であったことを知ったのは、成人してずいぶんたってからだ。
祖母は、所謂「農地解放」によって土地を召し上げられたことをずっと怒っていた。土地に関わる話題がもちあがると、「まったく!GHQが!!」と関係なくとも吐き捨てるのだった。