2014年3月31日月曜日

終ったというのに何もそこから始まらないという感じがしみじみと

 今日、二〇一四年三月三十一日「笑っていいとも!」が終了した。
 熱心な視聴者とはお世辞にも言えない私だが、それなりの感慨はあった。去年の十月に終りを耳にしたときは「何の感慨もない」と書き付けたのだが……。それは、たまたま球場に足を運んだらまったく知らない選手の引退試合だった、というのともまた違った、自分でもちょっと予想外のことだった。

2014年3月30日日曜日

番外「ららら科学の子」おまえはアホか編

 昔々その昔、黒いランドセルの金具をかちゃつかせながら、川向こうに巨大製紙工場が見える学校に通っていたときのこと。
 小学校には「どうとく」の時間があった。
 それを漢字で「道徳」と書くと知るのは、二年後のことになる。
 なんか知らん、つまんないテキストでつまんない話をきかせられ、その話についてどう思うかを「先生が決めて」、賛成する子が手を挙げておしまいとか、まあそんな感じで授業は進められていた。
 学校での思い出というものをほとんど持ってはいないのだが、「どうとく」の時間がなぜ世にもつまらないものに思えるようになったのか、というきっかけについてだけは記憶に残っている。
 それは、「どうとく」の教科書に載った短くて簡単な話で、どんな内容だったかというと、たろうくんとはなこさん、じゃんくて別な名前だったと思うが、確か男の子と女の子がそれぞれお小遣いをもらって、祭の縁日に行くという話だった。
 はなこさんじゃなかったと思う女の子は、お小遣いをちょっぴりだけ使ってほとんど貯金しました。
 たろうくんじゃなかったと思う男の子は、お小遣いをぜーんぶ使ってしまいました。
 さて、どっちがいい子でしょうか?

2014年3月26日水曜日

のぐちひでよはえらい人もしくは「ららら科学の子」


幼い頃、「のぐちひでよ 」といえば、「えらいひと」の代表格だった。彼についての伝記は知らぬ人とて無く、火傷でくっついた手を手術で治してもらったので、えらい医者になろうと決心して猛勉強してアメリカに行って本当にえらいえらい医者になったけど伝染病で死んじゃった、とだいたいこんな話だったっけ。
 しかしてその実態は……

2014年3月20日木曜日

クリミアが騒がしいようだけどアレクサンドル・ソクーロフについて少しメモしておこう

 アレクサンドル・ソクーロフという映画監督について、クリミア半島の騒動をきっかけに思い起こすことがあったので、ちょっとメモしておこうと思う。
 この監督について知らない人でも、二〇〇五年に昭和天皇を題材にした『 太陽 』という映画を撮った人だと聞けば、「ああ、あれか」と思い当たるだろう。
  彼はクリミアを舞台にした『ストーン/クリミアの亡霊 』(原題はкамень「石」)という映画を撮っている。 



    映画は、クリミアに今も残るチェホフの別荘に、チェホフの亡霊が現れて主人公と交流する、という幻想的な内容だ。闇の表現がすばらしく、そういえば幼い頃に見た暗闇というものは、静かでも暗黒でもなく、どこか騒がしくノイジーだったことが思い起こされる。ただチェホフの亡霊が、モーツァルトの実際に使っていたピアノを奏でるシーンで、太田胃散のCMメロディーショパン前奏曲作品二八の七イ長調)が流れてきたのにはどう対処すればいいかわからなかった。その時小さな映画館の中に、ホウ酸をタライの水に入れたみたく、ごく自然でかすかな笑いがくすくすとわいた。

2014年3月19日水曜日

人はいつ書物を憎悪するか続き

 前回のエントリーは妻に「なんかエラそう」と言われたので、もっとエラそうに書いてみたいと思う。えっへんえっへん。

 前回、世界と対峙する「怒り」と書いたが、その「怒り」はどこからくるのか。
 それは貧しさからくる、と言ってもただお金が足らないとか、そういう話ではない。
 ヘルムート・ラッヘンマンが歌劇『マッチ売りの少女 』で表現したような、世界からの拒絶、社会からの隔絶がその根本にある。
 

2014年3月17日月曜日

人はいつ書物を憎悪するか

 数日前に逮捕された男が、『アンネの日記』を破って回ったのは「自分だ」と供述した、とのニュースがあった。

Anne Frank Book Defacer Arrested in Tokyo http://www.hngn.com/articles/26558/20140314/anne-frank-book-defacer-arrested-in-tokyo.htm
Japan arrested man over Anne Frank book vandalism
http://digitaljournal.com/news/world/japan-arrests-man-over-anne-frank-book-vandalism/article/376588
 とまあ、海外でも詳しく報道されている。とはいえ、被疑者の氏名すら不詳のままでは論評するにも限界がある。

2014年3月14日金曜日

ほんとうのタヌキはタヌキ寝入りしないでほんとうに眠る

たぬき

    またも佐藤垢石を引用してしまおう。『望妖記』の中の「夫婦狸」から。

…………
 だが、狸は総じて無邪気にして洒脱味を帯びている。数多い狸のうちには、甚だのんきにできて、物ごとに余りこだわらぬ奴もいるのである。
 一夜中、たらふくにんじんや藷の御馳走にあずかると、つい睡気を催し、畠の畦などにころりと寝ころんでそのままぐうぐう眠ってしまい、朝がきて東の山の端を、太陽が離れるまで気がつかず、 ぐっすりとよい気持ちで横になっているのがある。これを、狸寝入りというのであろう。
…………
 狸寝入りという言葉があるが、これは眠りを装うことの意味であろうと思う。であるのに馬山村の狸は狸寝入りではなくて、ほんとうにのんびりと、本眠りに眠ってしまうらしい。
…………

2014年3月13日木曜日

おすすめはしませんがおすすめしたいのです

 世の中には、すばらしいけれどうかつにおすすめできない、という類いのものが存在する。
 音楽では、ルイジ・ノーノの『力と光の波のように 』とか。



 絵画だと、F.S-ゾンネンシュターンだとか。

2014年3月12日水曜日

安物買いが失われた銭を求めて三千里

 デフレ脱却デフレ脱却と勇ましいかけ声が永田町方面から響く中、吉祥寺駅前には驚安の殿堂ドンキホーテがどどんと進出してきた。代わりに無くなったのは、中途半端なブランド化で不思議とお高い無印良品だ。
 ドンキホーテでは生活に必要なものはほとんど、そして不必要なものも山ほど安売りしている。おまけに二十四時間営業だ。
 デフレってのは、ものが安くなることじゃない。「安物」が出回ることだ。少なくとも現代の日本ではそうなっている。だけど安さに釣られちゃ行けないと思いつつ、ついつい手が伸びる。気分は狂言「釣狐」のキツネだ。
 安売りに弱いのは主婦だけじゃない。実はおっさんだって弱い。とくに私は弱すぎる。なんたることか。今日も半額シールが貼られた刺身の前に立ち尽くす私がいる。

2014年3月10日月曜日

そして「自由ってなんて不自由なんだろう」

 一九九一年のクリスマス、ソ連は崩壊した。クリスマスと言っても、ロシアは正教なのでクリスマスは一月を過ぎてのことになる。そしてロシアは資本主義へと急激に舵を切ることになったが、それには「資産を社会全体で分け合うか、指導者がおいしいとこだけ独占するか」しかなかった、と当時のモスクワ市長ガブリエール・ポポフは回想する。
  Tragedy of Russia's Reforms: Market Bolshevism Against Democracy

2014年3月8日土曜日

世界を揺るがしたゴルバチョフの三日間から「自由ってなんて不自由なんだろう」へとつづく

 運命のクーデターからさかのぼること一カ月。一九九一年の七月に、ゴルバチョフはロンドンへと向かっていた。先進七カ国首脳会議(G7)にゲストとして出席するためだ。これが転機となって現在はG8になっているわけだが、今またG7に戻ろうとしているという。歴史は繰り返す。もはや喜劇ですらなく、漫才の定番ネタのごとく。
 それはさておき、このG7でゴルバチョフは「世界を変えた英雄」として迎えられると考えていた。だって、去年ノーベル平和賞を受けたばかりだったし。
 ゴルバチョフは、民主化したソ連をスウェーデンのような高福祉国家、すなわちスカンジナビアン・モデルにのっとった国に作り替えるつもりだった。それには是非とも、他の先進諸国からの助けが必要だったのだ。
 がしかし、そこで投げてよこされたのは、ゴルバチョフが望んだような救命ボートではなく、常に空気を吹き入れないとしぼんでしまうような、どっかに穴があいてるのにそれがどこだかわからない「うきわ」でしかなかった。

ショック・ドクトリン〈上〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く ショック・ドクトリン〈下〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く

2014年3月7日金曜日

世界を揺るがしたゴルバチョフの三日間


 ある日モスクワのピザハットゴルバチョフが来店した。ピザをぱくつくゴルバチョフをめぐり、客たちが騒いでいる。「やつはロシアの政治をがたがたにしやがった」とかなんとか。日本でもちょくちょく出前のバイクを見かけるピザハットのCMだ。
 ゴルバチョフという、この旧式の目覚まし時計みたいな体型のおっさんが登場した時の衝撃は、今でもよく憶えている。私が生まれる前から続いていて、きっと死んだあとも続くと思われた「冷戦」というやつが、あっという間に燃やされ燃え尽きてしまったのだ。バター祭のマースレニツァ人形みたいに。おかげで、冷戦で食ってた軍事評論家やスパイ小説家が失業し、ソ連を標的にした映画が山ほどお蔵入りになった。ハリウッドは慌てて『レッドブル 』なんて映画を作ってたっけ。主人公のロシア人刑事を演じたのはシュワルツェネッガーだった。
 上掲のCMではゴルバチョフを非難する人や評価する人がいて、それをなんとなく「ピザ」でまとめているが、実際ロシアでのゴルバチョフの評価は今でも散々だ。
False Story about Gorbachev Death Unleashes Wave of Hate
http://www.spiegel.de/international/world/false-story-about-gorbachev-death-unleashes-wave-of-hate-a-915670.html

2014年3月6日木曜日

ウクライナについて今ひとつ深刻な気分になれないのはなぜだろう

 先日ウクライナという国から大統領が追い出された。デモ隊は歓喜し、EUは歓迎し、そんなお祭り騒ぎに導かれるようにして、ロシアの兵隊たちがぞろぞろとクリミア半島へ遠足にやってきた。
 なんだか古臭いハリウッド映画でも見せられてるような気分になる。脚本はフランク・ピアソンか?
 この映画の困った所は、ウクライナ国民のすべてがエキストラであり、そのエキストラたちは出演料をもらうどころか「払う」立場にある、ということだ。

2014年3月3日月曜日

秘伝・超簡単万能だしつゆの作り方

 もう二十年以上だしつゆを自分で作っているので、市販のものは買ったことがない。めんつゆとして使うのはもちろん、おでん・肉じゃがなどなど、たいていの煮物はこれさえあれば超手軽。すごい簡単にできるので、レシピを公開してしまおうと思う。

2014年3月2日日曜日

アリストテレスの言うことにゃ「わしゃそんなこと言うちょらん」

カテゴリー論 命題論 (新版 アリストテレス全集 第1巻)

「尻は貧者の小さな金鉱である」
 アリストテレスは『人生論』の中でそう語っている。
 男であれ女であれ、貧しきものは自らの尻を使って生きるよすがとせよ、と……