ヘロドトス『歴史』 ――世界の均衡を描く (書物誕生 あたらしい古典入門) |
昔々その昔、まだ中東で石油が全然出てなくて、イスラム教とて影も形もなかった頃の話。
アケメネス朝ペルシャの暴君カンビュセス(おじいさんもカンビュセスでそのまたおじいさんもカンビュセスなんでまぎらわしいけど、B.C.六世紀頃の王様)が、エジプト征服の余勢をかって、一丁エチオピアでもいてこましたろかい、という気になった。いや、ほんとそういうノリの王様なんで。
そこでエチオピアでも有名な「長命族」を征伐しようと、以前家来にしといたイクテュオパゴイ人に贈り物を持たせて偵察にいかせた。イクテュオパゴイ人はエチオピア語がぺらぺらなのだ。
長命族の王様は、そんなペルシャの暴君の浅はかな思惑をすぐに見抜いたが、変に警戒することなく使者たちをかえって歓待した。
そして、ペルシャ人は何を食べてどのくらい生きるのか、と下問した。
使者たちは、ペルシャ人はパンを主に食べ、八十歳まで生きるものは少ない、と正直に答えた。そして、長命族がパンを知らないので、小麦の栽培法からパンの焼き方まで事細かに伝えた。
すると長命族の王はかようにのたまった。
「うんこなんか食べてたら、寿命が短いのは当たりまえだ」
小麦を栽培するのに肥料として人糞を使うので、小麦からつくるパンを食べるのは人糞を食べるのと同じだ、と王様は考えたわけだ。
そして王は使者たちに自分らの食生活について語った。彼ら長命族が普段食しているのは肉を煮たものがほとんどで、飲み物は主に動物の乳であり、小麦はもちろん植物っぽいものは食べない云々。
それでいて長命族は平均して百二十歳は生きる、とのことであった。
さてこの長命族と訳される一族、元の名を「マクロビオイ」という……
はいその通り、「マクロビオテック」てのはここから来てる。あ、公式には別なことが書かれてるらしいけど、語源的にはいっしょ。
とにかく健康法と言えば、二言目には野菜食え野菜食えだけど、古代においては肉を食った方が長生きできた、なんて話があるわけ。ま、環境も全然違うしね。
さて、イクテュオパゴイ人の使者たちがマクロビオイにもたらしたものの中には「酒」もあった。
マクロビオイの王は「この酒というやつだけはすばらしいな」と褒め称えた。
マクロビオイの人たちはそれまで飲酒の習慣がなかったのだ。
その後のマクロビオイ、すなわち長命族の寿命がどうなったかは定かではない。
マクロビオティックをやさしくはじめる
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